香水製造の基本。調香師になるには。
今回は、香水の基本。これさえ押さえればあなたも調香師ということで書いていきたいと思います。
実は、香りは五感のなかで唯一大脳辺縁系と言われる、食欲、性欲、好き嫌い等本能を司る器官に直結しているんです。
つまり、香りをコントロールするということは相手の本能をコントロールするということです。
これを機に、香りをマスターして頂ければと思います。
香水の構成について
香水とは。香料をエタノールで解いたものです。
香料については後で説明するんですけど。まずは、この香料の濃度によって香水の呼び方が変わってくるということを説明していきます。
実は、香水って100%香料で出来ているわけじゃなくて、殆どがエタノールで出来てるんですね。
なので、香料の歴史は古くても(古代エジプトの時代と言われている)、香水の歴史はアルコールが発明されて以降なのであまり古くはないんですね。
余談ですが、世界初の香水は1370年にハンガリーのエリザベート女公(じょこう)に贈られた「ハンガリー水」と言われています。
ローズマリーをベースにしたラベンダーやミントを加えたアルコールベースのものだったらしいです。なんか凄く癖がありそうw
話してるだけで、鼻がスースーするというか、カンファーの香りが漂ってきます。
まあ今のように、香料の抽出法が確立してなくて、すべて水蒸気蒸留法によるものだったのでハーバルノートがメインだったのでしょうか。
香料の抽出法についてはまた今度話します。
エリザベートの美貌が死ぬまで衰えることが無い様に願いを込めて修道僧が作ったらしいです。
ただ、その甲斐もあって、エリザベートは72歳という歳で、50歳代のポーランドの公主にプロポーズされたらしいです。
恐るべし香水のパワー!
余談は置いといて、香水の構成なんですが、先ずはパルファムと言って、香料濃度20%以上のものがあります。
ただ、殆ど市場には出回っていません。
香料の濃度が高い香水の特徴としては、香りが残りやすいということです。
逆にエタノールが多ければ多いほど、揮発性があがり、より強く短い時間で香るというイメージです。
次に、オードパルファムです。
香料が15%含まれているもので、市場には一番よく見かけます。
これは、一般的な香水の濃度の高い方の香水です。
匂いが強く香るのが特徴で、外出する際には一番お勧めです。
そして、オードトワレ10%、オーデコロン5%と濃度が下がるにつれて、香りの強さも弱まってきます。そして、値段もお手頃になってきます。
オーデコロンなんかは寝る前に、軽く香らせたい時にでも使えばいいと思います。
ただ、濃度が違うからと言って、人間の鼻で香料の濃度を嗅ぎ分けるのは難しいと言われています。
濃度が10倍になって初めて濃度の違いが認識できるとも言われています。(ウェーバーフェフィナーの法則)
香料について
香料の濃度によって、香水の呼び名が違うことを説明しました。
続いては、香料なんですが、この香料こそが香水の匂いの元になります。
2000種類以上もの香りがあって、調香師はその香りを選び、組み合わせることによって香水を作ります。調香師に選択された香料を「コレクション」といいます。
元エルメス調香師ジャンクロードエレナ氏のコレクション一部が下記になります。
・アネトール・アルデヒドC-10・アルデヒドCー11等々(詳しくは白水社から出ている下記の本を参照)
氏曰く、130種類の香料があれば足りるらしく、自信の著書でコレクションは公開されています。
拝見したところ、有名調香師だからと言ってめちゃくちゃ手に入りにくいものが使われているといったことはなく、だれでも手に入るようなものが使われていたので、皆さんにも素晴らしい調香が出来る可能性があります。
ただ、誰しも作れるチャンスはあるが、たくさん売れるような素晴らしい香水を作ることはたやすいことではありません。
香料は大きく2つに分かれていて。一つが天然香料で、もう一つが合成香料です。
天然香料は文字通り、天然から採取したもので、植物から取れたものと動物から取れたものがあります。
特徴としては、やはり高価だということですね。いずれの天然香料も人の手がかなりかかっていて、お花なんてのは全部手摘みなわけですのでとても高価です。
二大フラワーノートのローズ、ジャスミンなんていうのは、種類にもよりますが1㎏100万円するとも言われています。
ただ、お値段なりの価値があると思います。
本当に複雑でうっとりするくらいいい香りです。
比べて、合成香料は単純で無機質な感じがします。
そこで、調香師がこぞって天然香料の香りを、合成香料を組み合わせて再現しようと試みてきました。
ただ、それが中々出来ていないのが現状です。
天然香料にはまだ解明されていない成分がたくさん入っていて、解析することさえも出来ていません。
まさに神の調香ですね。
コストが高いということ、未知の成分が入ってるから安心か分からないということから、今販売されている香水には天然香料が殆ど含まれていません。入って0.数パーセントです。
これは、本当に残念なことですね。
ちなみに、ジャンパトゥの『JOY』という香水があって、なんとジャスミンの天然香料を26%も使用したレジェンド中のレジェンド香水なんです。
まさにパトゥ自身が言うように「香りのロールスロイス」の様な香水です。
2019年に日本市場から撤退してしまいました。香料に拘ったメーカーが無くなっていくのは本当に残念なことです。
天然香料にも、さっきのジャスミンとか花から取れたもの、柑橘系の皮から取れたもの、ハーブから取れたもの、後は木の樹脂から取られたものなんかがあるんですけど、それらを総称して植物性香料と言います。
ジャコウジカから取れたムスク、ジャコウネコから取れたシベット、マッコウクジラから取られたアンバーグリス、ビーバーから取れるカストリウム、の四つです。
ただ、今は動物保護の点から取られていません。合成香料を使って表現しているのが殆どです。
自分が嗅いだことがあるのは、シベットとカストリウムですね。
シベットはう〇ちの匂いで、カストリウムは薬膳というか正露丸の匂いです。
天然のムスクは鹿を殺さないと採取できないので、恐らく闇ルートを使わない限りは嗅ぐことが出来ないと思います。
ちなみに海岸を散歩中に石ころだと思って拾ったものが実はアンバーグリスだったという話で、希少な香料なので拾った本人が億万長者になったなんて話聞いたことは無いですか?
アンバーグリスってあんまり良く分かってなくて、クジラが飲み込んだダイオウイカの嘴とかなんとか言われてるんですが定かではありません。
ただ、香りはアニマルノートらしくすごいセクシーらしいです。
続いて、合成香料ですが、今の香水は、殆どがこの合成香料の組み合わせで作られています。
ここでは元エルメス調香師のジャンクロードエレナの『香水』から文章を引用します。
『化学こそ、こんにちの香水製造業の生みの親だ。科学者は、エッセンシャルオイル(天然香料)成分の研究と経験を頼りに、最初の合成分子を発明した。例えば1900年には8つのバラの匂いの構成要素が発見された。それが1950年代には20、1960年代には50になり、20世紀終わりには400以上ものバラの匂いの構成要素が確認された。
20世紀最初の10年間に、アルデヒド、イオノン、フェニルエチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロール、酢酸ベンジル、クマリン、バニリン、などこんにち日常的に使われる合成香料、そしてヒドロキシシトロネラールや最初のムスクなど、自然界に存在しない合成体が発明された。』
アルデヒドは、あの名香シャネルNO5に使われている、ゴージャスで華やかで高級感のある香りですね。
よく皮のソファーの香りと言われますが、自分はメダカの水槽の匂いだと思ってます。
イオノンは丸くて優しいファッティーな香り。
イブサンローランの『パリ』のイメージです。
フェニルエチルアルコール、ゲラニオール、シトロネロールはローズ、酢酸ベンジルはジャスミンの主要構成香料。
クマリンはトンカビーンズの香り。バニリンはバニラ、アイスクリームですね。
ヒドロキシシトロネラールはスズランの香りで、ムスクはお馴染みのシャンプーの香りです。
ここにあるように、合成香料は今の香水に欠かせません。
ただ、エレナはこのようにも語ってます。
『新しい香水は、合成香料のふんだんな仕様のおかげで機能性と安定性を増した。だが往年の香水の厚みのある、豊かでやわらかい個性は失われた。』
確かに、香料ってただ香らせるって目的だけで使われるわけではないんです。
コストとか安全性だって重要ですし、香水を周りに広げていく拡散性とか、後で話しますけど、香りの持続性という点で使われる合成香料もあります。
ただ、やはり天然香料をふんだんに使った複雑な香りの方が自分は好きですね。これは、好みになりますが…
これは余談ですが、実は、香水業界では、香水販売のコストにおいて、今まで広告費にコストを掛け過ぎてきたことに対する反省というか、反動というか、とにかく今までとは違う動きが出てきてるんです。
私の大好きな、フレデリックマルも実はそのような反動から生まれたニッチ香水メーカーですね。
要は広告を全く出さずに、とにかく香水の品質にこだわったメーカーになります。
今は、以前のようにテレビで広告を打つのが正しいという常識は無くなってきていて、ネットで情報はすぐに回りますし、なんなら自分みたいに個人のチャンネルでファンに対して直接訴求できる時代になりました。
そして、今までは香水は目に見えないもので、良さが分かりずらい為、どうしても服のついでに買うものでした。
シャネルが好きだから、カルバンクラインが好きだからということで売れてました。
ただ、これからは、より専門的でその人に合ったニッチ香水が売れていく時代になるのではないかと思います。
香料のタイプ
それぞれの香料には、タイプ別に分かれています。
シトラスノート、グリーンノート、アルデヒドノート、フローラルノート、ウッディーノート、モッシーノート、バルサムノート、アニマルノート
それぞれの香りについて簡単に説明すると。
先ず、シトラスノートが柑橘系の香りですね。
香水でいうと最初の方に香る、酸味の効いた香りです。代表的なものにベルガモットとか、グレープフルーツがあります。
二つ目が、グリーンノートですね。草刈りをした時の青臭い香りでイメージできます。
ガルバナムという、植物から取られた物が代表的な物ですね。
少年のような躍動感があります。
次にアルデヒドノート。これは、全て合成香料からなっていて、物凄く癖のある香りですね。
メダカの水槽っぽい。
ただ、フルーティーな桃の香りの様な物もあって個性が強いです。
フローラルノートは、ローズとジャスミンが有名ですね。お花の香りです。
ここらからラストノートと言われている。
香りが持続しやすい香りのグループになります。
先ずは、ウッディーノート。
代表格がサンダルウッドで、檜風呂のような香りです。
嗅いでるだけで安らかな気持ちになれます。
よくフローラルノートと組み合わせて使われます。
次にモッシーノート。
簡単に言えば苔ですね。
海苔の佃煮というか、とにかく濃い香りがします。
バルサムノートは、スイートノートとも呼ばれて、甘い蜜の様な香りです。
バニラの香りが有名ですね!
そしてアニマルノートです。ムスクが有名ですね。
自分はムスクがすごい好きです。
元々ムスクってジャコウジカのオスがメスを誘き寄せるためのフェロモンなんです。
なので香り自体もセクシーで心地よい感じです。
実は、ムスクって外交的な女性に人気な香りなんです。
これは学術調査で明らかになってるんです。
つまり、これを纏ったら陽キャのノリのいい女子にしか会わなくなるって事です。
実は、その他に、スパイスノートとか、ハーバルノートなんかもありますし、フラワーノートの中にも、ミュゲノートとか、リラノートとか、ガーデニアとか、色々あるんですけどキリがないのでまた今度にします。
調香の為に必要なもの
以上の香料を数十、多い時には数百組み合わせて香水を作ります。
調香に必要なものは0.01ℊ単位で香料を計れる精密ばかり、スポイトビーカーなどが必要です。
下記に必要なものをまとめました。
①精密ばかり
②ビーカー
③スポイト
③香料
④エタノール
⑤無水エタノール
ここまではあくまでアマチュアとしての香水製造のやり方です。
プロになる為には化粧品製造に関する責任が伴います。
具体的には化粧品GMPと呼ばれる手順を踏み適正に製造しなければなりません。
その為には、プロとしての知識、設備、資金、人材投与が必要になり、簡単ではありません。
詳しい説明に関してはまた次回にしたいと思います。
↓GMPについては下記をチェック
まとめ
今回は、調香師になる為の基本的な香料の特質について書きました。
香水製造の為のテキストには先ず最初に書かれている内容です。
こちらの内容を踏まえたら自ら香料を組み合わせ香水が出来るようになると思います。
しかし、その香りが本当に良い香りなのかどうか、それは理屈じゃ説明しにくい難しい問題です。
どの香料を使い、その比率はどうすべきかというアコードの問題は、調香師の永遠のテーマです。
無限の組み合わせがある中でそれぞれの香料を調整し新しい香りを作っていく。
そんなロマンある旅のスタート地点に立ったにすぎません。
調香師 三代孟史